2025年10月14日、Amazon Web Services(AWS)はAI関連認定資格の拡充を発表した。新たに「AWS Certified Generative AI Developer – Professional」を設立し、既存の「AWS Certified Machine Learning – Specialty」を廃止する。また「AWS Certified Security – Specialty」を更新し、生成AIセキュリティに対応した内容へと改訂する。この発表は、クラウドベンダーが生成AI時代における人材育成の方向性を明確に示した動きとして注目される。
発表された3つの認定資格の変更
新設される「AWS Certified Generative AI Developer – Professional」
AWSは新たにプロフェッショナルレベルの認定資格「AWS Certified Generative AI Developer – Professional」を設立する。この資格は、生成AIソリューションを実際のビジネス環境で稼働させるための専門知識を検証する。
対象者は、AWS上での本番環境アプリケーション構築経験が2年以上、かつ生成AIソリューションの実装経験が1年以上ある開発者やAIエンジニアだ。試験では、基盤モデル(FM)の選定と統合、検索拡張生成(RAG)アーキテクチャの設計、ベクトルデータベースの管理、プロンプトエンジニアリング、コスト最適化といった実践的なスキルが検証される。
ベータ試験は2025年11月18日に登録が開始され、204分間で85問が出題される。合格者には「アーリーアダプター」バッジが授与される。AWS Skill Builderでは、同日から試験準備プランが提供される予定だ。
廃止される「AWS Certified Machine Learning – Specialty」
従来の「AWS Certified Machine Learning – Specialty」(MLS-C01)は、2026年3月31日をもって廃止される。既に取得した認定は、取得日から通常の3年間有効であり続ける。廃止日までに再試験に合格すれば、資格の更新も可能だ。
AWSは代替となる学習パスとして、「AWS Certified AI Practitioner」、「AWS Certified Machine Learning Engineer – Associate」、「AWS Certified Data Engineer – Associate」、そして新設される「AWS Certified Generative AI Developer – Professional」を提示している。
この廃止は、2024年4月の「AWS Certified Data Analytics – Specialty」廃止に続く動きだ。AWSは認定資格を、広範な「Specialty(専門)」カテゴリから、実際の職務に即した「Engineer(エンジニア)」や「Developer(開発者)」といった役割ベースの資格へと再編している。
更新される「AWS Certified Security – Specialty」
「AWS Certified Security – Specialty」試験は、新バージョン(SCS-C03)に更新される。新試験の登録は2025年11月18日に開始され、現行バージョン(SCS-C02)の最終受験日は2025年12月1日となる。
SCS-C03では、生成AIおよび機械学習ワークロードのセキュリティに関する内容が拡充される。試験ドメインも再構成され、「検知とインシデント対応」に関するセクションが設けられた。生成AIに特有のセキュリティ課題への対応能力が評価されることになる。
背景にあるAWSのAI戦略
生成AIサービスの急速な拡充
AWSはAmazon Bedrockを中心に、生成AIサービスを急速に拡充している。2025年には、AIエージェント構築を簡素化するAgentCoreの一般提供が開始され、DeepSeek、Qwen、OpenAIなど多様なモデルが利用可能となった。プロンプトキャッシングやモデルアクセスの自動有効化といった機能も追加されている。
さらに独自の基盤モデルファミリーであるAmazon Novaの展開、Amazon S3 Vectors、NVIDIA Blackwell搭載の新EC2インスタンスといったインフラ強化も進められている。これらの新サービスを活用するためには、従来の機械学習知識だけでは不十分だ。新しい認定資格は、最新のAWSサービスを使いこなせる人材を認定するために設計されている。
クラウド市場における競合状況
Google CloudとMicrosoft Azureも、生成AI分野での人材育成に注力している。
Google Cloudは「Generative AI Leader」認定資格を立ち上げ、非技術系のビジネスリーダーをターゲットとしている。Google Cloud Skills Boostで、GeminiやNotebookLMといったツールに焦点を当てた無料学習パスを提供している。
Microsoftは、Azure OpenAI Serviceを核に開発者向けのアプローチを取っている。Azure AI StudioやSemantic Kernelを用いたアプリケーション構築に関する多様なトレーニングパスを展開している。
AWSが「プロフェッショナルレベル」の認定資格を投入したことは、高度な技術スキルの業界標準として自社の資格を位置づけようとする戦略だ。新しい資格は、Bedrock、AgentCore、S3 VectorsといったAWS固有のサービスに関するスキルを検証する。資格取得を目指す専門家は、これらのAWSツールを習得するために時間とリソースを投資することになる。そして企業は、この資格を持つ人材を優先的に採用する動きが予想される。
今後の影響
AI人材市場の動向
生成AIに言及する求人案件は、2023年から2025年にかけて増加している。企業は、認定されたAIスキルを持つ専門家に対して高い給与を支払う傾向がある。しかし、この需要に対して資格を持つ人材の供給が追いついていない。
Bain & Companyのレポートによると、米国では2027年までにAI関連求人の2つに1つが充足されず、最大で70万人の労働者のリスキリングが必要になると予測されている。実に44%の経営幹部が、この人材ギャップをAI導入の主要な障壁と認識している。
生成AIの台頭により、既存の職務も変化している。データサイエンティストの役割は、モデル構築からプロンプトエンジニアリング、倫理的監督、戦略的応用へとシフトしている。機械学習エンジニアは、カスタムアルゴリズムの構築よりも、LLMのためのMLOpsや基盤モデルの統合に注力するようになっている。同時に、「AIエンジニア」「プロンプトエンジニア」「AI倫理担当者」といった新しい職種が生まれている。
ITプロフェッショナルへの影響
主要な資格が廃止されるという事実は、IT業界のスキルが速いスピードで変化していることを示している。プロフェッショナルは、市場での価値を維持するために継続的な学習が求められる。
新しい認定資格は、生成AIを専門としたい開発者にとって、明確なキャリアパスを提示する。Python、TensorFlow/PyTorch、LangChainといったフレームワークの習得など、市場で需要の高いスキルセットを習得するための具体的な目標を提供する。
技術が変化する分野において、業界で認知された認定資格は、採用担当者にとって候補者が適切な専門知識を有していることを示すシグナルとなる。新設された資格の取得は、開発者にとってキャリアを左右する要因となる可能性がある。
企業のAI人材育成戦略への示唆
新しい認定資格は、生成AI人材を採用しようとする企業にとって評価基準を提供する。試験のドメイン(RAG、ベクトルデータベースなど)は、シニアAI開発者の標準的な職務記述書として機能し、採用プロセスを簡素化する。
企業は外部からの採用だけでAIのスキルギャップを埋めることは難しい。既存の従業員に対する構造的なアップスキリングプログラムへの投資が不可欠になる。企業は、社内トレーニングのカリキュラムをAWSの新資格でカバーされるトピックに合わせることで、チームが市場で価値のあるスキルを確実に習得できるようにすることが可能だ。
効果的なAI人材育成は、戦略的なアプローチを必要とする。役割ごとのニーズを評価し、学習パスをパーソナライズし、実践的なプロジェクトベースの学習に重点を置くことが求められる。目標は、組織全体で広範なAIリテラシーを構築すると同時に、特定の技術チームに深い専門知識を育成することだ。
AI人材ギャップはイノベーションとビジネス成長の阻害要因となっており、外部からの採用は競争が激しく高コストだ。多くの企業にとって最も実行可能な戦略は、社内での人材育成、すなわちアップスキリングとなる。これにより、学習開発(L&D)部門は従来のサポート機能から、企業の競争優位性を左右する戦略的機能へと位置づけが変わる可能性がある。
生成AI時代における人材育成の転換点
AWSによる認定資格ポートフォリオの再編は、業界全体が従来の機械学習から応用的な生成AIへと重心を移していることを示している。AWSは、レガシーな認定資格を廃止し、生成AI開発のための新たな基準を打ち立て、AIセキュリティを中核に据えることで、AI人材のあり方を形成しようとしている。
この新しい認定資格は、AIがもたらす急速な技術変化の時代において、スキルがどのように評価されるべきかという先例を打ち立てた。BKK IT Newsは、他のテクノロジープロバイダーや業界団体も、より実践的で役割に基づいたスキル検証の仕組みへと移行していく可能性があるとみている。企業と個人は、継続的な学習とスキルの再構築を組織文化とキャリア戦略の中核に据えることが求められる。
参考記事リンク
- Big news: AWS expands AI certification portfolio and updates security certification
- AWS features four AI certifications to give you an edge in pursuing in-demand cloud jobs
- AWS Certified Generative AI Developer – Professional
- AWS Certified Machine Learning Specialty
- AWS Certified Security – Specialty