本日2025年10月13日より、タイでは外国人労働許可証のオンライン申請システム「e-WorkPermit」が義務化された。従来の紙の冊子である「ブルーブック」が廃止され、すべての申請・更新手続きがデジタル化される。この変更は手続きの効率化を目的としているが、外国人を雇用する企業にとっては新たな対応が求められる。
従来の「ブルーブック」制度の終了
長年タイで使われてきた「ブルーブック」と呼ばれる紙の労働許可証冊子は、本日をもって新規発行が停止される。新制度では、QRコード付きのクレジットカードサイズのデジタルIDカードに完全移行する。
このカードには本人情報がデジタル登録されており、当局がスマートフォンでQRコードを読み取ることで、労働者の情報を即座に照会できる仕組みだ。従来の冊子は偽造リスクが高く携帯にも不便だったが、新しいカードはセキュリティと利便性の両面で改善されている。
この変更は突然実施されたものではない。タイ政府は2017年に移民労働者向けのe-WorkPermitスマートカードを試験的に導入し、その後も段階的にデジタル化を進めてきた。今回の義務化はこの流れの集大成と言える。
e-WorkPermitの申請プロセス
新制度における申請は8段階で構成される。まず雇用主と被雇用者の双方が、専用ポータルサイト「eworkpermit.doe.go.th」にユーザープロファイルを作成する。この際、企業の取締役は「ThaiID」モバイルアプリを通じて本人確認を事前に完了させる必要がある。
次に、申請フォームに必要事項を入力し、書類をデジタル形式でアップロードする。申請手数料100バーツはe-Payment機能でオンライン決済する。担当官による書類審査の進捗状況は、ポータル上でリアルタイムに確認できる。
審査結果はEメール、SMS、または公式LINEアカウントで通知される。承認された場合は、労働許可証の有効期間に応じた手数料を支払い、全国に設置された40箇所以上のサービスセンターの中から希望の場所と日時を予約する。
最終段階として、予約日時に本人がサービスセンターを訪問し、生体認証情報を提供する。顔認証、虹彩スキャン、指紋スキャンといった情報が登録され、物理的なe-WorkPermitカードを受け取る。この最終手続きは約12分で完了すると報告されている。完全なリモート手続きではなく、最終段階での本人確認が必須という点に注意が必要だ。
必要書類と適格要件
デジタル化されたのは提出方法であり、求められる書類や雇用条件に大きな変更はない。
被雇用者は有効なパスポート、非移民Bビザまたは該当する他のビザ、最近撮影した証明写真、タイ国内の医療機関が発行した健康診断書(申請前30~60日以内)、学歴および職務経験を証明する書類が必要だ。
雇用主側は、会社登記証明書、株主名簿、VAT登録証明書、社会保険登録書類、雇用契約書、事業所の所在地を示す地図などを準備する。
適格要件についても従来と同じく、外国人従業員1名につき200万バーツの最低登録資本金、タイ人4名につき外国人1名という従業員比率が引き続き適用される。タイ人配偶者がいる場合は資本金要件が100万バーツに減額される。ただしBOI奨励企業はこれらの要件が緩和されることが多い。
手数料体系も変更なく、申請手数料は100バーツ、許可証手数料は有効期間によって3ヶ月以内750バーツ、6ヶ月以内1,500バーツ、1年以内3,000バーツとなっている。
タイランド4.0とe-Government政策
e-WorkPermitの導入は、タイ政府が推進する国家戦略「タイランド4.0」の一環として位置づけられている。この戦略はイノベーションとテクノロジー主導の経済への移行を目指すものだ。
具体的には「e-Government 4.0」という行政サービスのデジタル化政策が進められており、デジタルプラットフォームを通じて行政の効率向上、透明性の確保、市民中心のサービス提供を実現することを目標としている。タイで就労する230万人以上の外国人に対する行政サービス改善は、この目標を具体化したものと言える。
新制度は、将来的に外国人も対象に含めるデジタルID推進、電子決済システムの拡大、政府統合データベースの構築といった、より広範なデジタルインフラ整備計画と連動している。
労働省、入国管理局など関連する政府機関がアクセス可能な統合デジタルデータベースが構築されることで、リアルタイムでの情報共有と監視が可能になる。これはタイ行政の長年の課題であった省庁間連携不足の改善が期待される一方で、当局によるコンプライアンス監視がより厳格かつ効率的になることを意味する。
企業と外国人労働者への実務的影響
新制度の最大の利点は、申請段階における書類作業の削減と、政府機関への複数回の訪問が不要になることだ。24時間アクセス可能なオンラインポータルは、多忙な申請者や地方に拠点を置く企業にとって改善となる。
申請状況をリアルタイムに追跡できる機能は、従来の紙ベースのシステムが抱えていた不透明さを解消する。手続きにかかる時間もより予測可能になる。
生体認証と連携した安全なデジタルカードへの移行は、労働許可証の偽造や不正使用のリスクを排除し、被雇用者と雇用主の双方に法的な安定性をもたらす。デジタルシステムにより、企業は外国人従業員の労働許可証の状況を一元管理でき、事務的なミスやコンプライアンス違反による罰金のリスクを低減できる。
ただし、大規模な政府ITシステムの導入に際しては、初期の技術的な不具合、サーバーの過負荷、処理の遅延が発生する可能性がある。新制度は利用者がある程度のデジタルリテラシーを有していることを前提としており、オンラインポータルやThaiIDアプリに不慣れなユーザーは手続きに困難を感じる可能性がある。
注意すべき最も重要な点は、申請プロセスの利便性向上が適格要件の緩和を意味するわけではないということだ。企業の資本金、従業員比率、個人の資格要件といった厳格な基準は引き続き適用される。
統合されたデジタルデータベースは、当局が情報を横断的に照合し、コンプライアンス違反を検知することを容易にする。ビザの種類と労働許可の不一致、未申告の副業、変更届出の遅れなどの違反に対する法執行がより厳格化する可能性がある。
企業が取るべき対応
企業は新制度への移行に向けて準備が必要だ。まず権限を有するすべての取締役が、ThaiIDモバイルアプリをダウンロードし、本人確認プロセスを完了させることが重要だ。これは新システムを利用するための前提条件となる。
すべての必要な企業書類および従業員書類を高品質なPDF形式で事前にデジタル化し、整理されたライブラリを作成しておくことで、迅速なアップロードが可能になる。
新しい8段階のデジタルワークフローに合わせて、社内のHRおよびオンボーディングプロセスを適応させる。データ入力から最終的な生体認証の予約まで、各ステップの責任者を明確に指定することが推奨される。
関連するHR担当者に対し、新しいポータルの操作方法に関する研修を実施する。また、すべての現役および将来の外国人従業員に対し、新しいプロセスと要件を明確に伝達することが重要だ。
BOI奨励企業は引き続きBOIのシングルウィンドウ・システムを利用できる。LTRビザやSmartビザ保持者は、それぞれの専用窓口が定める特定の手順に従うことになる。
複数の雇用主で働く場合やフリーランスの場合は、「1つの職務に1つの許可証」という原則が引き続き適用される。それぞれの雇用契約に対して個別の労働許可申請が必要だ。デジタルシステムでは、当局が未承認の副業を検知することがより容易になる点に留意すべきだ。
BKK IT Newsの見解
オンライン化により企業や個人が直接申請しやすくなるように見えるが、データ主導の執行リスクが高まることで、専門家の支援を求める企業が増加する可能性がある。申請フォームの入力ミスが自動的に監査や却下のトリガーとなり得るため、企業はリスク回避の観点から、専門家にプロセス全体を委託することを選択するかもしれない。
旧システムではコンプライアンスは煩雑な物理的プロセスを完了させることで証明されていた側面があったが、新システムではコンプライアンスはデジタル記録の完全性と一貫性によって判断される。担当官は個人のビザ、労働許可、雇用主、社会保険の全履歴を瞬時に照会できるため、データ間のあらゆる矛盾が警告フラグとなり得る。
したがって、申請は容易になるが、コンプライアンス違反の状態を維持することは困難になるという規制執行の根本的な変化が生じると考えられる。
参考記事リンク
- Thailand’s E-Work Permit Revolution: What Expats Need to Know in … – FOSR Law
- Thailand Launches 24-Hour e-WorkPermit Platform for Foreign Workers – Thailand Government
- Thailand Enhances Foreign Work Permit Service – Thailand Government
- E-work permit smart cards get roll-out – Bangkok Post
- Thailand: Mandatory Online Work Permit and Foreign Worker Registration System Forthcoming | Fragomen