世界銀行がタイに気候変動対策を警告~GDP最大14%損失か、投資で成長機会も

世界銀行がタイに気候変動対策を警告~GDP最大14%損失か、投資で成長機会も タイ政治・経済
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世界銀行は2025年10月3日、タイに関する国別気候開発報告書(CCDR)を発表した。報告書では、タイが効果的な気候変動対策を講じなければ、2050年までにGDPが基準レベルから7%から14%減少する可能性があると警告している。この数字は、タイが現在直面している経済成長の鈍化と、将来の高所得国入りという国家目標との関係で重要な意味を持つ。

気候変動対策の二つの道

世界銀行の報告書は、タイに二つの道を提示している。一つは気候変動への不作為がもたらすGDPの7~14%損失。もう一つは、戦略的投資を通じて2050年までにGDPを4~5%押し上げる可能性だ。

この対照的な数字は、気候変動対策が単なるコストではなく、経済成長のための投資であることを明確に示している。タイは2037年までの高所得国入りを目標に掲げているが、気候変動への対応なしでは、この目標達成は困難になる。

複合的な脅威の構造

予測されるGDP損失は、単一のリスクではなく複合的な脅威から構成される。

熱ストレスによる労働生産性の低下は、2050年までに最も重大な経済的脅威として浮上する。特に農業や建設業などの屋外労働では、生産性の損失が倍増する可能性がある。屋内労働の生産性を維持するための冷房システムの年間コストは、2050年までに110億ドルから170億ドルに達する可能性がある。

洪水リスクも深刻だ。人口の40%が居住し、GDPの66%を生み出すチャオプラヤ川流域は特に脆弱である。2030年に大規模な洪水が発生した場合、それだけでGDPが最大4%減少する可能性がある。2011年の大洪水は当時のGDPの12%以上に相当する465億ドルの損害をもたらし、グローバル・サプライチェーンを深刻に混乱させた経験は記憶に新しい。

水不足は主要な農業地域や、タイの経済成長の要である東部経済回廊(EEC)を含む工業地帯を脅かしている。沿岸侵食は2040年代半ばまでに観光セクターに年間最大10億ドルの損失をもたらす可能性がある。

輸出主導型経済への移行リスク

報告書が強調するのは、物理的リスクだけではない。世界的な低炭素経済への移行から生じる「移行リスク」も同様に強力だ。

多国籍企業の78%が2025年以降、炭素排出量の多いサプライヤーを自社のサプライチェーンから除外する計画を立てている。欧州連合(EU)の炭素国境調整メカニズム(CBAM)のような政策は、タイの輸出にますます大きな影響を与える。

タイ経済は輸出とグローバル・サプライチェーンへの統合に大きく依存している。脱炭素化に失敗すれば、タイの輸出企業は製品の品質や価格に関わらず、最も価値のある市場から排除されるリスクに直面する。

過去の教訓と現在の課題

タイの気候は長期にわたる変化の兆候を示している。平均気温は20世紀半ばから上昇傾向にあり、年間総降水量は増加しているが、降雨の頻度は減少し、一度の降雨がより激甚化している。これにより、より長い乾季とより深刻な洪水という二重の脅威が生じている。

農業はタイの労働力の約30%を雇用しているが、GDPへの貢献度は8~9%にとどまる。米は最も重要な作物だが、気候変動は熱ストレス、干ばつ、洪水を通じて米生産を脅かしている。21世紀半ばまでに米の総生産量は10%以上減少し、深刻な食料安全保障上のリスクを生み出す可能性がある。

観光業はパンデミック以前、GDPの約20%を占めていた。このセクターは気候リスクに非常に脆弱で、海岸線の30%に影響を及ぼす沿岸侵食は、ビーチや沿岸インフラを脅かしている。

投資による成長機会

報告書は明確な機会も提示している。洪水緩和、水安全保障、沿岸保護、冷却インフラへの戦略的投資は、成り行き任せのシナリオと比較して、2040年までに年間GDPを2~3%、2050年までに4~5%引き上げる可能性がある。

タイはすでに環境に優しいエアコンの輸出でリーダー的存在であり、世界の太陽光発電輸出の4%を供給し、EV生産拠点として台頭している。市場参入障壁の緩和、技術力の強化、イノベーションの促進といった措置により、2030年までにグリーン輸出をGDPの2~3%増加させることができる。

今後25年間で必要とされる総投資額は2,190億ドル(累積GDPの約2.4%)と推定されている。これは炭素価格設定、公的歳入改革、民間資本の動員を通じて実現可能と見なされている。

タイの現行政策の評価

2021年に開始されたバイオ・サーキュラー・グリーン(BCG)モデルは、タイの持続可能な成長のための核心戦略である。世界銀行はBCGを良い基盤と見なしつつも、より野心的な「BCG+」モデルを提唱している。

2024年に提出された国家適応計画(NAP)は、水管理、農業、観光を含む6つの優先セクターにおける適応のための枠組みを提供している。タイは2050年までのカーボンニュートラルと2065年までのネットゼロ排出を目標に掲げている。

これらの政策は高いレベルの野心を示しているが、野心と現場での実施メカニズムや資金調達の現実との間に潜在的な乖離が存在する可能性がある。アジア開発銀行は、適応資金が総額の1%未満と、決定的に不足していると指摘している。

企業への影響と対応策

気候変動の影響は社会的に中立ではない。タイの貧困層の79%は、気候に敏感な農業に主に依存する農村部に居住している。政府の災害支援が損失のほんの一部しかカバーしないため、気候ショックは脆弱な世帯を貧困の罠に陥れる。

企業にとって、気候変動対策は単なる環境問題ではなく、経済的な必要性となっている。サプライチェーンの脱炭素化、気候リスクへの適応、グリーン技術への投資は、将来の競争力を維持するための重要な選択肢となる。

バンコクは年間最大2cm沈下し続けている一方で、海面は上昇している。バンコクは国のGDPの66%を生み出すチャオプラヤ川流域に位置しており、極端な降雨シナリオの下では、2030年までにバンコクの40%が浸水する可能性がある。

BKK IT Newsとしては、企業は気候変動対策を事業計画の中心に据え、リスク管理と機会の両面から戦略を見直すことを検討すべきと考える。

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