タイでBBIX OCXが正式提供開始 ~クラウド接続基盤でデータ主権とマルチクラウド戦略を両立~

タイでBBIX OCXが正式提供開始 ~クラウド接続基盤でデータ主権とマルチクラウド戦略を両立~ クラウド
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タイのクラウド接続市場に重要な転換点が訪れた。2025年10月3日、BBIX (Thailand) Company Limitedが「Open Connectivity eXchange(OCX)」の提供を開始した。このサービスは、日本のBBIX株式会社(ソフトバンクの子会社)とタイの大手データセンター事業者True Internet Data Center(True IDC)の合弁事業として運営される。

OCXは、企業がクラウドへの接続を数分で確立できるNetwork as a Service(NaaS)プラットフォームだ。従来の専用線接続が数週間を要していたのに対し、オンデマンドでのプロビジョニングを実現する。

急成長するタイのクラウド市場

タイのパブリッククラウド市場は、2025年から2030年にかけて年平均成長率23.68%という高い成長率が予測されている。2030年には市場規模が85.1億米ドルに達する見込みだ。

この成長を後押しするのが、タイ政府の積極的な政策だ。「タイランド4.0」戦略では、経済をイノベーションとテクノロジー主導型へ転換することを目指している。また「クラウド・ファースト」政策により、政府機関は新規ITプロジェクトでクラウドソリューションを優先的に検討することが求められている。

さらに、タイ政府のデータ分類ガイドラインは、機密性の高いデータを国内に保管することを推奨している。この政策により、国内データセンターへの高品質な接続サービスの需要が高まっている。

OCXの技術的特徴

OCXの核心は、Software-Defined Networking(SDN)技術にある。ネットワークの制御機能をソフトウェアで集中管理することで、柔軟な帯域変更やオンデマンドプロビジョニングを実現している。

サービスの主な特徴は以下の通りだ。顧客は専用ポータルを通じて、数分でプライベートネットワーク接続を確立できる。帯域幅は50Mbpsから最大10Gbpsまで、ビジネスの要求に応じて選択可能だ。また、OCX-Router(v1)という仮想ルーター機能により、物理的なルーターを用意する必要がない。

セキュリティ面では、パブリックインターネットを経由しない閉域網接続を提供する。顧客ごとに通信が論理的に分離され、高い機密性が確保される。True IDCのUptime Institute Tier III Gold認証を取得したデータセンターを基盤としており、キャリアグレードの信頼性を持つ。

接続可能なクラウドエコシステム

OCXは、複数の主要クラウドサービスへの接続に対応している。Amazon Web Services(AWS)、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)、IBM Cloud、Alibaba Cloud、さくらのクラウドなどへ、単一のポータルから接続できる。

国際接続機能も提供される。東京、シンガポール、タイの3拠点を結ぶシームレスな接続が可能だ。特に、シンガポールのグローバルハブとタイのローカル拠点を連携させることで、オンデマンドでの国際データセンター相互接続を実現している。

SaaS接続機能も特徴的だ。OCXの閉域網から、インターネットを経由せずに直接SaaSアプリケーションに接続する経路を提供する。ServiceNow社の「Now Platform」が接続先として確認されており、安定した通信環境でサービスを利用できる。

True IDCとの協業体制

BBIXとTrue IDCは、2018年に合弁会社BBIX Thailandを設立して以来、6年以上にわたりタイ国内でIXサービスを提供してきた。この既存の事業基盤と顧客との信頼関係が、OCXのタイ展開を支えている。

サービスの接続拠点は、バンコクに位置するTrue IDCの2つのデータセンター内に設置されている。「True IDC North Muang Thong」と「True IDC East Bangna Campus」がその拠点だ。これらの施設は国際標準の認証を取得しており、高い安定性とセキュリティを保証している。

シンガポールとの戦略的連携

OCXのタイでのサービス開始は、シンガポールでの主要クラウド接続ハブ設立と同時に行われた。この同時展開は、東南アジアにおけるBBIXの戦略を示している。

シンガポールをグローバルなクラウド接続のハブ、タイをローカルなデータセンター接続の拠点として位置づけることで、両者を連携させている。このアーキテクチャにより、タイ国内の企業はシンガポールのハブを経由して、世界中の主要なクラウドリソースへアクセスできる。

また、国境を越えたオンデマンドでのデータセンター相互接続が実現される。企業はタイの物理インフラとグローバルなクラウドを組み合わせたハイブリッドITインフラを、国境を意識することなく構築できるようになる。

企業への価値提案

OCXが提供する価値は、コスト削減、運用効率の向上、ビジネスの俊敏性という3つの観点から整理できる。

ルーターやスイッチなどの高価なネットワーク機器の購入・保守が不要となるため、設備投資を大幅に削減できる。また、必要な帯域を必要な期間だけ利用できるため、過剰な設備投資を避けることが可能だ。

複数のクラウドやデータセンターへの接続を単一のポータルから一元管理できるため、ネットワーク管理の複雑さが軽減される。IT部門の担当者は、煩雑な手作業から解放され、より付加価値の高い業務に集中できる。

ネットワークリソースを数分で調達・拡張できる能力により、企業は市場の変化に迅速に対応できる。従来のネットワーク調達サイクルがボトルネックとなることなく、ビジネスの成長に合わせてインフラを拡張できる。

ターゲット産業と活用シーン

OCXは、クラウド技術への依存度が高い多様な業種のニーズに応えるよう設計されている。

製造業では、IoTプラットフォームからのリアルタイムデータ収集・分析基盤としての活用が期待される。金融・銀行業界では、高いセキュリティと信頼性が求められる基幹システムやフィンテックサービスの接続に適している。

SaaSプロバイダーにとっては、自社サービスの高品質な提供チャネルとなる。インターネットサービスプロバイダーや携帯電話事業者は、自社ネットワークからクラウドへの直接的で安定した高速接続路として活用できる。

トラフィック変動の激しい企業は、システム拡張期やトラフィック急増時に柔軟な帯域管理を行うことが可能だ。

既存サービスとの違いと連携

タイ市場には、AWS Direct ConnectやMicrosoft Azure ExpressRouteといったクラウド専用接続サービスが既に存在する。これらは各クラウドプラットフォームとの深い統合が強みだが、単一のクラウドエコシステムに最適化されている。

AWS Direct Connectは、企業のオンプレミス環境とAWSを専用線で接続するサービスだ。タイ国内では、NTT、Telehouse、AIS、UIHといったパートナーを通じて提供されている。同様に、Azure ExpressRouteは、AISやCloud HMなどがパートナーとなっている。

これらのサービスは信頼性が高い一方で、それぞれのクラウドへの個別契約が必要となる。複数のクラウドを利用する場合、各クラウドごとに異なるパートナーとの契約手続き、異なる管理画面での操作、異なる請求体系への対応が求められる。また、契約形態は長期的なものが多く、オンデマンドでの柔軟な帯域変更が難しい場合がある。

OCXはこれらのサービスを代替するのではなく、補完する位置づけとなる。OCXを経由してAWS Direct ConnectやAzure ExpressRouteに接続することも可能だ。この場合、企業は単一のOCXポータルから複数のクラウド専用接続を一元管理できる。

OCXの差別化要因は3つある。第一に、真のマルチクラウド中立性だ。特定のクラウドベンダーに依存せず、あらゆる主要クラウドへ単一のポートとポータルから接続できる。第二に、接続のプロビジョニングや帯域変更を、契約や人手を介さず、ポータル操作のみで数分以内に完了できる俊敏性だ。第三に、True IDCとの深い統合により、信頼性の高いデータセンターインフラとタイ市場での広範な顧客基盤という強固な現地基盤を持つ点だ。

高速で安全な通信を要求する大規模なエンタープライズ企業にとって、OCXは複数のクラウドサービスを統合的に管理するための有力な選択肢となる。

BKK IT Newsの見解

OCXのタイでのサービス開始は、政府のデジタル化政策、市場の成長、そして現地パートナーシップという3つの要素が揃った時期に行われた点が注目される。

年率23%以上で成長するクラウド市場において、企業がデータ主権要件を満たしながら、複数のクラウドサービスを統合的に管理できる選択肢が増えたことは意味がある。特に、政府のクラウド・ファースト政策により、公共セクターからの需要が見込まれる点は見逃せない。

ただし、マルチクラウド戦略については慎重な検討が必要だろう。複数のクラウドプラットフォームを利用することで、人材コスト、運用コスト、管理の複雑化といった課題が発生する可能性がある。各クラウドプラットフォームは内部に強力なエコシステムを持っており、その利便性を最大限活用することも選択肢の一つとなる。

OCXのようなサービスは、高速で安全な通信が不可欠な大規模企業向けのソリューションだ。製造業のIoT基盤、金融機関の基幹システム、大規模なSaaSプラットフォームなど、ミッションクリティカルなワークロードを複数のクラウドで運用する企業にとって、統合的な接続管理の価値は大きい。

True IDCとの協業により、BBIXは単なる技術提供者ではなく、タイ市場に深く根ざしたサービスプロバイダーとして位置づけられる。6年以上の実績と既存の顧客基盤は、新規参入者にはない優位性だ。

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