2025年9月、タイ国家経済社会開発評議会(NESDC)がマレーシアおよびインドネシアと新たな経済協力計画で合意した。インドネシア・マレーシア・タイ成長三角地帯(IMT-GT)の新5カ年計画(2027-2031)策定により、タイ企業、特に南部地域の事業展開に大きな変化が予想される。
30年の歩みから次なる段階へ
IMT-GTは1993年の設立以来、3カ国の地域経済格差是正を目的とした準地域協力の枠組みとして機能してきた。対象地域はタイ南部14県、マレーシア半島部8州、インドネシア・スマトラ島10州という広域をカバーしている。
現行計画であるIB 2022-2026では、パンデミックからの回復において目覚ましい成果を上げた。準地域内の貿易総額は2019年の3,679億ドルから2023年には6,597億ドルへと飛躍的に増加し、投資総額も同期間に251億ドルから481億ドルへとほぼ倍増した。
特に観光分野では「Visit IMT-GT Year 2023-2025」キャンペーンが大きな成功を収め、2024年の海外観光客到着数は5,910万人に達し、パンデミック前の2019年実績を18%上回った。これらの実績が次期計画への強力な推進力となっている。
新計画の5つの重点分野と戦略的転換
2025年9月の第31回閣僚級会合では、次期計画の骨子として5つの重点分野が特定された。従来の協力分野を深化させつつ、現代的な課題への対応を組み込んだ内容となっている。
第一は「越境インフラ・物流の連結性強化」である。物理的なインフラ建設から効率性と国際基準への準拠を重視する方向へと進歩している。第二は「持続可能な都市と観光」で、観光客数の回復から質への転換を図り、環境保全と地域コミュニティへの利益還元を重視している。
第三は「環境配慮型農業」で、イノベーションと技術導入により付加価値を追求する。第四は「デジタル能力と導入の促進」で、デジタル技術の経済・社会全般への実装・活用フェーズへと移行する。第五は「労働力開発」で、デジタル化やグリーン化といった産業構造変化に対応できる人材育成を強化する。
特に注目すべきは、新たに戦略的重要性が高まったクリーンエネルギー協力である。再生可能エネルギー開発、スマートグリッドシステムの拡大、越境電力網協力の3点が協力の柱として挙げられ、アジア開発銀行(ADB)とASEAN事務局が技術的・財政的支援を表明している。
タイ南部への具体的影響
新計画がタイ南部にもたらす変化は、インフラと主要産業の両面で顕著になる見込みだ。
インフラ面では、サダオ-ブキッ・カユ・ヒタム道路連結の6車線化、ハジャイ-パダン・ブサール鉄道複線化、南部港湾開発、トラン空港開発といった主要プロジェクトが推進される。これらの完成により、タイ南部はマレーシアへの陸路とインド洋・太平洋を結ぶ海路の結節点としての地位を確立する。
産業面では、農業分野で「Srivijaya牛産業プロジェクト」や「ラバーシティ構想」、「パーム油協力」などが高付加価値化を目指す。観光業では環境負荷を低減し、地域の文化遺産を活用した体験型観光へのシフトが進む。
国家戦略との連携効果
新計画の戦略的価値は、タイの国家戦略との共鳴にある。政府が推進するバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルと、新計画の「環境配慮型農業」「持続可能な観光」「クリーンエネルギー」は完全に一致している。
また、ASEAN全体の「デジタル経済枠組み協定(DEFA)」交渉と新計画の「デジタル能力の促進」は相互に補完し合う。IMT-GTは、ASEANの複雑な国際ルールを3カ国間で先行的に実践する実験場としての役割を果たすことになる。
今後の企業戦略への提言
BKK IT Newsとして、この機会を活用するために企業が検討すべき選択肢を提示したい。
新重点分野への投資検討では、グリーン農業、持続可能観光、クリーンエネルギー、デジタルサービスに明確なビジネスチャンスが見込まれる。特に、ハラル認証食品、環境配慮型パッケージ、スマート農業技術、エコツアー関連サービスなどが有望とされる。
物流戦略の見直しも重要な選択肢となる。サダオ国境検問所の拡張や鉄道複線化などインフラ整備の進展に伴い、新たな物流拠点の設置や越境eコマース対応のラストマイル配送サービス展開が考えられる。
人材開発への参画も一つの方向性となる。大学や職業訓練校と連携し、地域の労働力がデジタルスキルやグリーン技術に対応できるよう、インターンシップや共同訓練プログラムへの参加が選択肢として挙げられる。
一方で、タイ南部国境県における開発と安全保障のバランス、複雑な越境手続きの存在、民間セクターの関心維持といった課題への対応も不可欠となる。これらの課題を克服し、機会を最大化することが、今後5年間の企業戦略において重要な要素となるだろう。
参考記事リンク
- Thailand Hosts the 31st IMT-GT Ministerial Meeting in Trang Province
- NESDC meets Indonesia, Malaysia to draft new IMT-GT plan for 2027–2031
- Indonesia-Malaysia-Thailand Growth Triangle (IMT-GT) Vision 2036
- JOINT LEADERS’ STATEMENT SIXTEENTH INDONESIA-MALAYSIA-THAILAND GROWTH TRIANGLE SUMMIT
- imt-gt implementation blueprint 2022–2026