タイ家電市場で中国勢が急拡大 ~シェア倍増でハイアール・美的集団が日韓勢に挑戦

タイ家電市場で中国勢が急拡大 ~シェア倍増でハイアール・美的集団が日韓勢に挑戦 タイ国際外交・貿易
タイ国際外交・貿易

タイの家電市場で新たな競争時代が到来している。中国の主要メーカーが大規模投資を背景に攻勢を強め、従来の市場構造に大きな変化をもたらしている。

タイの家電市場で中国メーカーの攻勢が本格化している。ハイアールや美的集団といった中国大手が数十億バーツ規模の投資でタイに製造拠点を設立し、市場シェアを急速に拡大している。東南アジア全体で中国家電ブランドのシェアは2015年の3.6%から2024年には8.6%まで倍増し、特にエアコン市場では9%から25%へと飛躍的な成長を見せている。

過去の経緯と背景

中国家電メーカーのタイ進出は、複数の要因が重なって加速した。最も大きな要因は米中貿易戦争による高関税の回避だ。中国企業にとってタイは米国市場向けの迂回輸出拠点として戦略的価値が高まった。美的集団がラヨーン県の新工場で生産する製品の9割以上を米国向けに計画している事実がこの動機を物語っている。

また、中国国内の景気減速と不動産市場不振により、家電需要が冷え込んだ。国内に滞留する過剰生産能力が、海外市場への製品輸出を促進する強力な圧力となっている。一方でタイ政府は、投資委員会を通じて法人税免除や機械輸入関税免除などの魅力的な優遇措置を提供し、中国企業の投資を積極的に誘致している。

主要企業の大型投資と戦略展開

現在、中国の主要家電メーカー5社がタイ市場攻略を主導している。

ハイアールはチョンブリ県に100億バーツを投じ、年間生産能力600万台のスマートエアコン工場を建設している。これにより3,000人以上の雇用を創出し、タイをASEAN市場の製造・輸出拠点と位置づけている。同社はタイでの2025年売上目標を前年比28%増の140億バーツに設定している。

美的集団はラヨーン県に22億バーツを投資し、最新のデジタル技術を導入したエアコン工場を設立した。特筆すべきは生産品の90%以上が米国市場への輸出を目的としている点だ。現地で約1万人を雇用し、そのうち97%がタイ人である。

TCLとハイセンスはスマートTV市場で攻勢を強めている。TCLはプレミアムスマートTV市場に本格参入し、2028年から2032年にかけてタイ市場で20%以上のシェア獲得を目指している。ハイセンスは100インチ以上の超大型TVでグローバル市場を席巻した強みをタイでも展開し、タイ国内での生産拠点設立を視野に入れている。

シャオミはスマートフォンで築いた強力なブランドイメージを武器にエアコン市場へ新規参入した。サイアム・パラゴンなどの一等地に旗艦店を構え、テクノロジー志向の消費者にアピールしている。

価格競争と高付加価値化の二極戦略

中国ブランドの戦略は二つの軸で構成されている。第一は圧倒的な価格競争力だ。中国製品は同等機能の日韓ブランドと比べて一般的に10%から30%安価に設定されている。この価格差はタイの消費者にとって大きな魅力となっている。

第二は高付加価値製品の積極投入だ。ハイアールがAI推薦機能を搭載した洗濯機を発表したほか、各社が競って省エネ性能や高度な空気清浄システムを搭載したエアコンを投入している。TCLやハイセンスは大型・高画質のプレミアムスマートTVを展開し、「安かろう悪かろう」のイメージ払拭に努めている。

この二極戦略により、タイの家電市場は価格重視のマス市場とブランド・体験価値重視のプレミアム市場に分断されつつある。消費者の選択基準は「どの国のブランドか」から「支払う価格に対する価値」へとシフトしている。

今後の市場予想

BKK IT Newsは、中国企業の攻勢がさらに継続すると予想する。タイを東南アジアのハブとする戦略的位置づけと、現地生産による品質向上により、市場シェアの拡大傾向は続く見込みだ。一方で、EV市場でのNETA破綻事例が示すように、価格の安さだけでは長期的成功は困難である。アフターサービス体制の充実が成功の分岐点となるだろう。

企業への提言

タイに拠点を持つ企業は、この市場変化への対応を検討する必要がある。製造業では中国企業のサプライチェーンに参画する機会もあるが、品質要求やコスト要求への対応力が求められる。小売業では価格競争に巻き込まれないよう、付加価値の創出やブランド価値の向上が重要な選択肢となる。また、日韓ブランドは製品単体の競争から、IoTエコシステムや生活ソリューション提案への転換を図る戦略も考えられる。

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